2015年9月26日土曜日

book329 『鈴木さんにも分かるネットの未来』 川上量生 (2015)

「ネットとはなにか、をぼくにも分かるように書いてくれ」
だれもかれもがネットに国境がないことを あたりまえに思っています
だれか懐疑的な検証をする人がいても いいのではないでしょうか

【概要】                    

スタジオジブリの小冊子『熱風』の連載(2012年11月号 - 2014年4月号、全18回)を加筆修正して出版。

著者: 川上 量生、1968年生まれ。91年に京都大学工学部卒業。同年、株式会社ソフトウェアジャパン入社。97年に株式会社ドワンゴ設立、代表取締役に就任。現在、同社代表取締役会長、株式会社KADOKAWA・DWANGO代表取締役会長、スタジオジブリプロデューサー(鈴木 敏夫)見習い。06年より株式会社ニワンゴでウェブサービス「ニコニコ動画」運営に携わる。

著者からのメッセージ: ぼくが師事するスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーに入社当初から与えられていたテーマがあります。ネットとはなにか、をぼくにも分かるように書いてくれ、という命題です。 more info
目次: 
はじめに ネットが分からないという現象が生み出すもの  
ネット住民とはなにか
ネット世論とはなにか
コンテンツは無料になるのか
コンテンツとプラットフォーム
コンテンツのプラットフォーム化 
オープンからクローズドへ
インターネットの中の国境
グローバルプラットフォームと国家
機械が棲むネット
電子書籍の未来 
テレビと未来
機械知性と集合知
ネットが生み出すコンテンツ
インターネットが生み出す貨幣
リアルとネット
【読むきっかけ&目的&感想】               

Podcast「ジブリ汗まみれ」で、ジブリ・プロデューサー鈴木敏夫、ドワンゴ会長 川上量生、日本テレビ 依田謙一、堅田先生が、『鈴木さんにも分かるネットの未来』をテーマに話し合っているのを聞いて、もっと詳しく知りたくなって読んでみた。
*Podcast「ジブリ汗まみれ」は、映画「崖の上のポニョ(2008)」公開前にその情報を知りたくて聞き始めたに過ぎなかったが、ジブリ云々に関わらず面白かったのでそれ以降ずっと聞き続けている。
2015/07/27 「鈴木さんにも分かるネットの未来」をテーマに(前編)
2015/07/27 「鈴木さんにも分かるネットの未来」をテーマに(後編)
**Podcast: Rebuild Jul 01 2015 Aftershow 98 (23:30 - 30:30) でも話題にしてたな。こっちでの話も面白かった。
さくら好み ★★★★

コンテンツとプラットフォームの関係など、ネット世界に終始することなくリアル世界と絡めながら書いてあったので、私でも分かりやすかったし面白かった。

【備忘録】                                          

ネットに国境がなくて本当にいいのでしょうか?

インターネットになぜ国境がないのか、インターネットに国境がないことによってこれから社会はどう変わっていくのかが、ちゃんと真剣に議論されるべきだと、ぼくは思います。すくなくとも政府はもっと考えたほうがいい。なぜならグローバル化において国家の存在が希薄化している最前線は、ネットという新しい領土にあるからです。いつまでも関税がどうだとか、モノと資本の移動ばっかりに囚われた議論をしている場合ではありません。いま、ネットによって社会システムがリアルな世界から電子の世界へと移動しつつあり、そこの大部分は国家の統制が及ばない場所になりつつあることを認識すべきです。二一世紀に国家が消滅するとすれば、それはネットの世界から始まるでしょう。

ネットに国境がなくて本当にいいのでしょうか? そのことでこれからの日本はどうなるのでしょうか? いまは、だれもかれもがネットに国境がないことをあたりまえに思っています。だれか懐疑的な検証をする人がいても、いいのではないでしょうか。

IT舶来主義

ビジネスマンにとってネットへの最大の関心事はどうやってネットで儲ければいいのかでしょうが、これがとても難しいテーマです。

なにも指針がないなかで人間はどういったものにすがるのかというと、ひとつはやっぱりネットの本場ではどうなっているかということです。そしてネットの本場というと、やはり米国です。

ネットの世界ではIT舶来主義とでもいうべき、米国の技術やトレンドが正解であって、これからの日本のネットの未来を示しているという見方が強くあります。

ネットに国境がない現状のほうが望ましいと思う人たちの理屈

特にインターネットに詳しいと自認する人ほど、インターネットに国境がなくて国家権力も及ばないほうがいい、と思っている人が多数派であるように思います。その主なものは以下のようなパタ―ンでしょうか。
  • 国家がそもそも嫌いである人。インターネットに限らず、本来ならネット以外でも国家権力が及ぶ範囲は小さいほうがいいと思っている。
  • 世界統一国家を夢想する人。国家間で戦争や、経済格差があることを良しとせず、インターネットを通じて国境がなくなり、争いのない平等な世界統一国家が実現する方向へ進化する未来を夢想している。
  • インターネットが言論の自由を実現する場を与えると信じる人。独裁政権ですら言論統制できないメディアとしてインターネットが機能し、革命を起こす原動力になったり、政府などの腐敗を防止する役目を果たすと思っている。
  • 世の中の流れだと思っている人。インターネットを中心にさまざまな技術革新や社会変革が起こっており、世界を動かす大きな流れに乗り遅れることを恐れている。
だいたいこの四つのパターンで、インターネットに国境がなくて国家権力も及びにくい現状のほうが望ましいと思う人たちの理屈は説明できているように思います。

この四つのパターンの理屈のいずれか、あるいはふたつ以上をインターネットの大部分の知識人は持っていますので、結果的にはインターネットに国境がなくて国家の支配が及ばないことに懸念を持つ人はあまりいません。

だから、いまの現状が続いているわけですが、今後の十年あるいは二十年というタイムスパンで見た場合は、反動現象が現れて、インターネットに国境をつくろうとする動きが活発化するだろうというのが、ぼくの予想です。

なお、ここでひとこと断っておきますが、ぼく自身がインターネットに国境をつくるべきであるという主張をしているわけではありません。国家がインターネットに国境をつくろうと試みるのは当然のことであり、それが今後のインターネットの歴史の大きな軸になるだろう、と主張しているだけなのです。