2015年10月18日日曜日

book332 『バルサの食卓』 上橋 菜穂子・エッセイ, チーム北海道・レシピ (2009)

ファンタジー『守り人シリーズ』に登場する
異世界の料理 の 料理本


【概要】                    

バルサとチャグムが熱々をかきこんだ“ノギ屋の鳥飯”、タンダが腕によりをかけた“山菜鍋”、寒い夜に小夜と小春丸が食べた“胡桃餅”、エリンが母と最後に食べた猪肉料理…上橋作品に登場する料理は、どれもメチャクチャおいしそうです。いずれも達人の「チーム北海道」が、手近な食材と人一倍の熱意をもって、物語の味の再現を試みました。夢のレシピを、さあ、どうぞ召し上がれ。

「チーム北海道」の7人・・・<南極料理人>の西村淳さん①。そのお友達でカフェを経営するプロの料理人のイデ妙子さん②。西村さんの奥様のみゆきさん③、西村さんの妹さんの美子さん(企画を実行に移す力を持っているテレビ・ウーマン)④、彼らの友人でカメラマン渋谷さん⑤、器と着物のお店をやっている淳美さん⑥、お茶の達人高阪さん⑦。

【読むきっかけ&目的&感想】               

守り人シリーズを読んでいたとき、「ノギ屋の鳥飯」がいかにも美味しそうで、とても印象に残った。それを含めた守り人世界の料理が、南極料理人さん達によってレシピ化された本があることを知り、読んでみた。

さくら好み ★★★★


レシピだけかと思っていたら、各々の料理にまつわる上橋菜穂子さんのエッセイもあり、守り人世界が食においてもアジアを意識して書かれていることがよく分かって、とても面白かった。

エッセイにあった「イングリッシュ・マフィンをトーストして、バターもしみこませ、蜂蜜をたらして、牛乳につけて食べてみましたが、これが絶品!」というのは、すぐに試してみたら、すっごく美味しかった。「ノギ屋の鶏飯」と「ハラク」も試してみるつもりだ。NHK『グレーテルのかまど』じゃないけど、物語の食べ物って何だか格別な気がする。美味しい以上の何かを脳が感じている(笑)。

NHKテレビでこの『精霊の守り人』がドラマ化されるが、食のシーンが今から楽しみだ。他はともかく、「ノギ屋の鳥飯」は登場するに違いない。
*NHK総合テレビジョン『放送90年 大河ファンタジー 「精霊の守り人」』は 全22話からなる3部作。シーズン1(全4話)を2016年3月から、シーズン2(全9話)を2017年1月から、シーズン3(全9話)を2018年1月から放送。
【備忘録】                                          

目次

序 ことの起こり

* これがなくっちゃ
バムとファコ……『天と地の守り人 第二部』『獣の奏者 I 闘蛇編』
オルソ……『精霊の守り人』『神の守り人 下 帰還編』
湯気のたつスチャルと汁かけ飯……『天と地の守り人 第二部』
菜飯……『狐笛のかなた』
ノギ屋の弁当風鳥飯……『精霊の守り人』

* ガッツリいきたい
猪肉の葉包み焼き……『獣の奏者 I 闘蛇編』
サンガ牛の炙り焼き……『闇の守り人』
鳥のから揚げ宮廷風……『精霊の守り人』
ホウロ漬け豚肉の炭火焼……『天と地の守り人 第一部』
豚肉煮と肉煮込み……『蒼路の旅人』

* ちょいと一口
マッサル……『天と地の守り人 第一部』
チャアム……『虚空の旅人』
ロッソ……『闇の守り人』
魚と果物の和え物……『虚空の旅人』
ハラク……『獣の奏者 II 王獣編』

* 心温まる一品
タンダの山菜鍋……『精霊の守り人』
ラコルカ……『闇の守り人』『神の守り人 下 帰還編』
ラルウ……『闇の守り人』『神の守り人 下 帰還編』

* 旅のお供に
ラーダ……『夢の守り人』
おむすびとシュルジ……『狐笛のかなた』『夢の守り人』
ジョコム・甘い携帯食・干し肉・マイカの蜜煮……『闇の守り人』『夢の守り人』『神の守り人 上 来訪編』『精霊の守り人』

* 甘いお楽しみ
マッロ……『天と地の守り人 第二部』
あぶり餅……『狐笛のかなた』
胡桃餅……『狐笛のかなた』
焼き菓子……『虚空の旅人』『神の守り人 下 帰還編』『天と地の守り人 第一部』
トッコ……『天と地の守り人 第三部』
あとがき

ファコ

手渡された、温かい木椀の中身を見て、エリンはびっくりした。

木椀に入っていたのは、お米のご飯ではなかった。ぱさぱさに乾いたお餅のようなものを香ばしく焼いて、それがお乳につけてあるのだ。その上に、たっぷりと黄金色の蜂蜜がかかっていた。お乳と蜂蜜が滴っているお餅をつまみあげて頬ばり、かみしめたとたん、口の中にじゅうっと甘く香ばしい味が広がった。

「これは、なんですか?」

乾いたお餅のようなものを見せながら、尋ねると、おじさんは、一瞬、けげんそうな顔をした。それから、うなずいて教えてくれた。

「それはファコ(雑穀から作る無発酵のパン)だ。おれたちは、いつも、こいつを食べる。雑穀を挽いて粉にして、水で練って焼くんだよ。香ばしくて、うまいだろう?」
『獣の奏者 Ⅰ 闘蛇編』

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『精霊の守り人』を書きたくなったとき、心に浮かんでいたことのひとつに、西欧のファンタジーの模倣ではなく、アジアで生まれた私らしい異世界を書いてみたい、ということがありました。ですから、小麦粉を使うカンバルやロタであっても、食べているのは、西欧の食卓にのぼるイースト発酵のパンではなく、中東からアジアに多く分布している無発酵のパンにしたかったのです。

『獣の奏者』に出てくるファコもまた無発酵のパンです。<闘蛇編>で、蜂飼いのジョウンが、幼いエリンに食べさせてあげたファコは、丸いイングリッシュ・マフィンのような形をしたもので、半分に切って、香ばしく焼いておいて、それをお乳につけて、さらに蜂蜜をたらしたものです。

私はこの場面を書いたとき、無性にこれが食べたくなり、イングリッシュ・マフィンをトーストして、バターもしみこませ、蜂蜜をたらして、牛乳につけて食べてみましたが、これが絶品! ジュウッと口の中にあふれる旨味のすばらしいこと。この本のレシピは、無発酵ではありませんが、ぜひこのタイプも試してみてください。

ちなみに、『獣の奏者』のⅢ<探求篇>には、お店で売っている大きなファコが登場します。これは大きな円形の平べったい無発酵パンで、ポッポッと湯気がでているようなのをお店で買ったら、布を畳むように二つ折りにして、小脇に抱えて帰ります。

イランに行ったときに食べたナーンが、まさに、そういう感じで、これがまた、とても美味しかったのです。機会があったら、ぜひ食べてみてください。

 ノギ屋の弁当風鶏飯

「・・・・・さて、じゃあ、昼ご飯をいただくかね」

トーヤたちが買ってきてくれたのは、鳥飯だった。ジャイという辛い実の粉とナライという果実の甘い果肉をまぶしてつけこんだ鳥肉を、こんがりと焼き、ぶつ切りにして飯にまぶしたもので、これもじつにおいしかった。トーヤたちは、竹の筒に入った、まだ湯気がたっている熱いお茶や、果物なども買ってきていた。
『精霊の守り人』

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さあて来ました、ノギ屋の弁当!

読者が食べたいと言ってくださることが一番多かったのが、このノギ屋の弁当でした。

考えてみると、あの照り焼きのタレは、世界中にありそうで、実はなかなかない、独特のタレなのかもしれません。

<材料>
ご飯 4膳分
鶏モモ肉 2枚
リンゴ 1/4個
日本酒 お玉1
みりん お玉1/2
みりん お玉1/2
山椒の実 20粒

<レシピ>
① リンゴを皮ごとすりおろし、醤油・酒と混ぜておく。
② 鶏もも肉は皮に切れ込みを入れ、フライパンで皮からじっくり焼く。 *油は使わず、出てきた鶏肉の脂はキッチンペーパーでふき取りながら、皮に焦げ目がつくまで弱火でじっくり焼きましょう!
③ 皮に焦げ目がついたら、ひっくり返して焼く。
④ 8分通り火が通ったら、①を加えてからめ焼く。
⑤ みりんを加えてからめ、照りを出す。
⑥ 軽く潰した山椒の実を加えて、火を止める。
⑦ 盛ったご飯に、食べやすい大きさに切った鶏肉をのせ、タレをかけて食べる。

 ハラク(蜜入りハーブ茶)

「そこに座ってくれ。そなたに、訊きたいことがあるのだ」

示された椅子にイアルが腰をおろすと、ダミヤは丸い卓においてあった濃い緑色の硝子の瓶の蓋をとり、ふたつの杯に琥珀色の液体を注いだ。

片方の杯をイアルに手渡して、ダミヤはちょっと杯を持ち上げる仕草をした。

「酒ではない。ハラク(香草の汁を黒蜜で味付けした飲み物)だよ。・・・・・伯母上の供養だ。ひと口だけでも、つきあってくれ」

ダミヤが自分の杯を一気にあけるのを見て、イアルも、ハラクを口に含んだ。強い香草の香りが鼻に抜け、黒蜜の甘さの中に、なにか舌を刺す苦味を感じた。
『獣の奏者 Ⅱ 王獣編』

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手品師が、右手の動きで幻惑して、左手の動きを隠すように、口にした瞬間、強い香りが鼻に広がって、他の香りや味を消し去ってしまう飲み物なのです。

しかし、それでは味を楽しむことができませんので、今回作っていただいたハラクは、牛乳を加えて少しマイルドになっています。異国の香りを楽しんでください。

<材料>4杯分
紅茶 小さじ1
牛乳 450cc
水 250cc
*スパイス
*カルダモン 4個
*クローブ 2個
*シナモン 1本
*粒黒コショウ 4粒
*八角 1個
蜂蜜 適量

<レシピ>
① スパイスを合わせ、軽く潰しておく。
② 鍋に①と紅茶を入れ、水を加えて火にかける。
③ 煮立ってきたら弱火にし、少し煮る。
④ 牛乳を加えて、沸騰直前に火からおろし、濾しながらカップに注ぐ。
⑤ 蜂蜜を加えて飲む。