2016年5月12日木曜日

book355 『火花』 又吉直樹 (2015)

「エジソンが発明したのは闇」
「エジソンが発明したのは暗い地下室」


「しゃあないから、
泣きタブに泣きの実入れて入ろ、
今日は泣き色にしよかな」
「もう、なんのこと言うてるんかわかりませんわ」



【概要】               

売れない芸人・徳永は、熱海の花火大会で、先輩芸人・神谷と電撃的な出会いを果たす。徳永は神谷の弟子になることを志願すると、「俺の伝記を書く」という条件で受け入れられた。奇想の天才でありながら、人間味に溢れる神谷に徳永は惹かれていき、神谷もまた徳永に心を開き、神谷は徳永に笑いの哲学を伝授しようとする。 wiki

【読むきっかけ&目的&感想】     

様々なメディアで話題になった本書だが、私の周りで読んだ人達からは芳しい感想が聞こえてこなかったので、読む気になれなかった。Amazonレビューを読むだけでゲンナリしてしまった、というのもある。・・・が、読んでみたら意外にも凄く面白かった(笑)

お笑いタレント(の又吉直樹)が書いた"純文学"、文芸雑誌『文學界 2015年2月号』が創刊以来はじめて再増刷、芥川賞を受賞、単行本が200万部以上売れた、Netflixでドラマ化される、などなど話題の種になった作品。発刊から一年以上たったけど、これだけ話題になったのだから、社会の鏡として読めば、仮に自分好みでなかったとしても面白いだろうと思って、今更ながら読んでみた。

図書館では、所蔵数が76冊もあるのに未だ2千人超の人が予約待ちしているので、知人に借りた。Netflixでドラマが放映される6月より前に読みたかったので、知人には感謝感謝だ。

さくら好み ★★★★


TBSテレビ「明石家さんまのずっとあなたが好きだった!」という番組がある。その第1回(2011年8月25日)で又吉直樹さんが読んだラブレター文、その表現や距離感を私は気に入ってしまい、又吉さんに注目するようになった。今思えば、彼の文章と私の相性は良かったのだ。

「火花」という作品の主人公が若手お笑い芸人で、これを書いたのが現役のお笑い芸人であるという事実が、読み手である私の感じ方に与える影響は小さいものでは無かったと思う。フィクションではあるものの、又吉直樹というお笑い芸人が実際に肌で感じた感覚に違いない、と思わせられてしまうから。それがこの作品に説得力を与えている。

冒頭に主人公・徳永がコンビで漫才を披露するシーンがある。花火大会の前座としてなのだが、花火の打ち上げ音とそれに対する歓声や拍手の中でやるはめになる。マイクを通しても周囲1mほどにしか声の届かないという悪条件、誰も笑ってくれない、というか声すら届かない。それでも15分という枠を済ませて・・・

この冒頭文がすごく良くて、情景がありありと目の前に広がった。私の下手な要約だとピンとこないだろうが、映像とともに小説の世界観がギュッと詰まっていて、”文章のリズムが気持ち良い”と感じた。

ネタバレ

「売れなかった芸人が最後に大逆転して成功する」、というエンタメ小説になっていないのが良かった。そうすると、読みながら私が感じたすべてが嘘になってしまうから。売れる芸人にはなれなかったけど、あの終わり方はハッピーエンドだと思う。